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インドネシア人との離婚

日本人がインドネシア人と離婚する場合の方法を整理したいと思います。

 

1.日本での離婚手続き

日本在住の日本人がインドネシア人配偶者(夫又は妻)と離婚する場合には、まず日本での離婚手続きを検討するのがよいと考えます。

法の適用に関する通則法27条は、「・・・夫婦の一方が日本に常居所を有する日本人であるときは、離婚は、日本法による。」と定めれておりますので、日本在住の日本人がインドネシア人配偶者と離婚するとき、日本法に基づいて離婚することが可能です。これは、夫婦でインドネシアに居住していたが、その後に本帰国した日本人の場合でも同様です。

次に、日本で離婚を成立させるためには、インドネシアの制度とは異なり、必ずしも裁判所の関与を要しません。協議離婚が可能であり、双方署名済みの離婚届を役所に提出することで、日本での離婚を成立させることができ、戸籍にも反映されます。

協議離婚ができない場合には、日本の裁判所で離婚調停や離婚訴訟を行う必要があります。

インドネシア人配偶者が外国にいるときは、日本の裁判所が、離婚調停や離婚裁判を取り扱う権限を有するかという国際裁判管轄(家事事件手続法3条の13、人事訴訟法3条の2)を考慮する必要があります。

人事訴訟法3条の2は、人事に関する訴え(離婚訴訟)を日本の裁判所に提起できる場合を細かく列挙しています。これらに該当しない場合には、日本の裁判所が取り扱えず、インドネシアで離婚訴訟を行わなければならないこともあります。

しかし、同条7号は「日本国内に住所がある身分関係の当事者の一方からの訴えであって、(中略)その他の日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を図り、又は適正かつ迅速な審理の実現を確保することとなる特別の事情があると認められるとき。」と定めております。すなわち、特別な事情があるときには日本の裁判所で離婚訴訟を行うことが可能であるとしておりますので、形式的には該当しない場合でも、日本での離婚訴訟を検討すべきと考えます。

また、日本での離婚調停や離婚訴訟において、インドネシア人配偶者が日本に居住する場合であれば、通常、数週間で裁判所から相手方に申立書が送達されます。しかし、インドネシア人配偶者がインドネシア等の外国に居住する場合には、裁判所から相手方の居住する外国に外交ルートを利用して申立書を送達する必要があり、概ね半年から1年程度の期間を要します。したがって、この場合には本格的に手続きが開始されるまでに相当の期間がかかることを予定しなければなりません。

そして、日本で離婚を成立させた場合には、在本邦インドネシア共和国大使館や領事館に届け出て、離婚証明書を発行してもらうことが可能です。

 在本邦インドネシア共和国大使館のウェブサイトに、以下のとおり、必要書類が掲載されております。

離婚証明書申請 必要書類
  1. 申込書に記入してください ー インドネシア語のみ ー (ダウンロード)
  2. 夫婦のパスポートのコピー
  3.  区市町村発行の離婚受理証明書 原本
  4. 当大使館発行の結婚受理証明書のコピーまたはブクニカのコピー
  5. 住所、氏名の記載されているレターパック510 または 360(返信用)
  6. 在留カードのコピー
  7. 日本人の戸籍のコピー
  8. インドネシア人のIDカード(KTP)とファミリカードのコピー

但し、離婚証明書の発行により直ちにインドネシアで離婚成立となるわけではなく、インドネシアで離婚を成立させるためには、基本的に、別途、インドネシアの裁判所に離婚を申し立てる必要があります。離婚証明書は、インドネシアの裁判所での手続きにおいて、証拠として使用することが可能となります。

 

2.インドネシアでの離婚手続き

インドネシアでの離婚に関係する法令等は、次のとおりです。

婚姻に関する法律1974年1号(婚姻法)、(但し2019年16号法律で、両性の婚姻年齢が19歳に改正)

婚姻に関する法律1974年1号の施行に関する政令1975年9号

文民公務員の婚姻及び離婚の許可に関する政令1983年10号

文民公務員の婚姻及び離婚の許可に関する政令1983年10号の改定に関する政令1990年45号

・大統領指令1991年1号「イスラム法集成」(Kompilasi Hukum Islam: KHI)

宗教裁判に関する法律1989年7号、(但し、法律2006年3号及び2009年50号で改正)

インドネシアに居住する日本人がインドネシア人配偶者と離婚するためには、インドネシアの裁判所に離婚を申し立てる必要があります(婚姻法39条1項)。(但し、日本人が本帰国後に日本で協議離婚する、又は日本の裁判所に離婚を申し立てるという方法もあり得ます。)

インドネシア人配偶者がイスラム教徒の場合には、婚姻時に日本人もイスラム教徒となっているはずですので、宗教裁判所で審理及び裁判されます(婚姻法63条1項a)。
インドネシア人配偶者がイスラム教徒でない場合には、一般の地方裁判所で審理及び裁判されます(婚姻法63条1項b)。

通常、調停手続きが先に行われ、当事者間で離婚やその条件を合意できない場合に、訴訟手続きへと進むこととなります。

婚姻法施行に関する政令第19条は、離婚事由を次のとおり定めております。

  1.  当事者の一方が姦通を犯した、または更生困難な飲酒中毒者、アヘン常用者、賭博常習者等になった;
  2. 一方の当事者が他方の当事者の許可なく、かつ正当な理由もなく、または能力以外の別の事由で、続けて2年他方の当事者を遺棄した;
  3. 当事者の一方が、婚姻後、5年以上の拘禁刑を受けた;
  4. 一方の当事者が他方の当事者を脅かす重大な虐待行為または虐待を行った;
  5. 当事者の一方が、夫/妻としての義務を遂行できなくなるほどの身体的障害または疾患を負った。
  6. 夫と妻の間に継続的な不和や口論が起き、再び和して家庭生活をする見込みがない。          「現代ムスリム家族法」第2章インドネシアーインドネシアのイスラーム法と家族法(小林寧子)より引用

また、イスラム教徒の夫には、認められたタラーク離婚という特別な離婚手続きも存在します。

インドネシアの裁判手続きは、いったん始まれば日本と比べて裁判期日の間隔が狭く(その分準備が大変ですが)、早く進む印象です。途中コロナウイルスの影響で期日変更があった離婚訴訟でも、半年程度で一審判決が出た記憶があります。

インドネシアで離婚が成立した場合には、離婚判決書の一部を翻訳して、その他必要書類とともに、在インドネシア日本大使館、日本領事館又は日本の役所に届け出ることで、日本でも離婚を成立させ、戸籍に反映させることができます。

なお、インドネシアの離婚判決書に子の親権者の定めがない場合には、日本でも共同親権として取り扱われます。

 

※上記は、筆者の見解を交えた説明・翻訳であり、個別事例への適用については一切の責任を負えません。個別の案件に関しては、別途ご相談ください。


P.S. 写真はアロール島付近の海で撮影しました。

弁護士 味村祐作

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