以下は、2015年10月12日ブログ記事の移管です。
写真は、ジャカルタから船で3時間のプラウスリブ、Pulau Macan(タイガーアイランド)にて、夕暮れ時に撮影。
Population Groups in Indonesia
インドネシアにおける民族の多様性について、法的側面から見ていきたいと思います。
インドネシアには、300を超える民族がおり、600を超える言語が使用されています。
また、16世紀以降にはオランダによる植民地支配が始まり、中華系などの移民も存在することから、インドネシアは多種多様な人種・民族で構成されている国といえます。
もちろん、人種や民族ごとに慣習は異なり、婚姻・相続・土地制度などの分野においては、適用される法律も異なっていました。
現在では、法律の統一化が進んでいますが、それでも婚姻関係や相続に関しては、イスラム教徒とそうでない者とで適用法が異なるという現実があります。
歴史的には、オランダ植民地時代以降、人々は法適用の観点からグループ化され、現在では、以下の3グループに分けられております。
なお、議論があるものの、法改正が行われていないので、このグループわけは現在も存続しているとのことです。
1.ヨーロッパ人
a. オランダ人
b. その他ヨーロッパを起源とする人※1
c. 日本人※2
d. その他、母国においてオランダ法に類似する家族法に服する者(オーストラリア人、アメリカ人、トルコ人など)
e. 上記b.~d.に該当する者の認知された子およびその子孫
※1 ヨーロッパで生まれた人、ヨーロッパ系の子孫を意味するとされています。
※2 日本人は、アジア人ですが、ドイツ法を基にした近代的家族法を有していることから、ヨーロッパ人に分類されております。
2.インドネシア現地人
3.Foreign Orientals
上記1.2.以外の者
さらに、Foreign Orientalsは、中華系とそうでない者に分けられています。
(1)中華系
(2)中華系でない者・・・アラブ人やインド人など
そして、私法に関していえば、各グループにより、適用法が以下のとおり異なっていました。
1.ヨーロッパ人には、オランダ法(但し、現地仕様化や施行時期のズレから、オランダ本国の法とは必ずしも一致しない)
2.インドネシア現地人には、ヨーロッパ人用だが現地人にも適用される法律、インドネシア現地人用の法律、全グループ向けの法律、および各民族の不文律(Adat)
3.Foreign Orientalsのうち、
中華系には、養子縁組を除くオランダ法
非中華系には、家族に関する事項および無遺言による相続に関する事項を除きオランダ法
なお、グループ間のみならず、インドネシア現地人同士の取引や婚姻においても、各民族によりAdatが異なるので、異なるAdat間において、いずれのAdatが適用されるかという問題(conflict of law)は別途存在していました。
各グループの序列としては、頂点にヨーロッパ人があり、その次にForeign Orientals、インドネシア現地人という順序になります。
なお、インドネシア現地人やForeign Orientalsが、改宗、ヨーロッパ的生活様式の採用、教育程度などによりヨーロッパ人にステータスが変わることや、また極稀にヨーロッパ人やForeign Orientalsがインドネシア現地人にステータスが変わる制度もありました。
かかる制度からすると、法適用を前提としたグルーピングであるため、各人の実情にあったステータスを与えるという意識があったようです。
前述のとおり、このようなグループわけは、統一法の施行が進んでいることから、現在、実生活で意識することは殆どないようですが、インドネシアの歴史を知るうえで、興味深いものがあります。
(追記)
上記グルーピンが問題となる一例を紹介します。
例えば、インドネシア現地人に分類されている者が、商法上のFirmaというパートナーシップを組成する際にグルーピングが問題となります。
インドネシア商法は、オランダ植民地時代(1847年)のものが、現在もそのまま使用されていることから、上記グルーピングの影響を受けます。
この商法は、オランダ法をもとにしており、上記グルーピングでいうヨーロッパ人及びForeign Orientalsに適用されるものです。
そのため、インドネシア現地人に分類される者が、商法上のFirmaを組成する際には、そのステータスをヨーロッパ人に変更する(または商法の適用を受ける状態にする)必要があります。
このように、現在も、上記グルーピングは、一部で機能しております。
なお、ステータスを永続的に変更する方法のほか、一時的に特定の法律行為について他のグループに適用される法律を適用する方法などがあります。
上記は、筆者の見解を交えた一般的な説明であり、個別事例への適用については一切の責任を負えません。個別事例への適用については、別途、ご相談ください。
弁護士 味村祐作
この記事へのコメントはありません。